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執筆者の写真Emi Igarashi / Editor

3/6/2021 ベートーヴェン ピアノ・トリオ「幽霊、ゴースト」 へ長調、op. 70 no. 1

「それは、あまり良い経験であったとは言えない.まず、ベートーヴェンのピアノは長い間調律されていなかった.そしてベートーヴェンはすでに難聴であったため、少なくとも彼にとっては調律されていないピアノを弾くことは問題なかった.今まで、あれ程高く賞賛されてきたベートーヴェンの素晴らしい技術は、ほとんど、あるいは全くと言っていほど残っていなかった.難聴のベートヴェンは、大音量のパッセージを弾くとき、音符を続けさまに叩きのめし、スコアがないと聴いているものにとってはメロディーが全く分からないほどであった.私はこの悲劇に深く動揺した.そしてこの経験から、ベートヴェンのほぼ継続的な憂鬱は、私には謎ではなくなった.」(1808年にベートヴェンにピアノ・トリオ、ニ長調のリハーサルに招かれた折に、ヴァイオリニスト、ルイ・シュポーがしたコメント)


「大公」と並び「ゴースト」は最も良く弾かれるベートーヴェンのピアノ・トリオ.難しい曲ではあるが、ピアノ・トリオを弾く(編集者を含む)アマチュア演奏家にとってはレパートリーとして是非持っていたい曲である.編集者が選んだトリオはジャクリーヌ・デュ・プレ(チェロ)、ダニエル・バレンボイム(ピアノ)、ピンカス・ズーカーマン(ヴァイオリン)によるレコーディング.恐らく1970年の初めに録音されたらしいこのレコーディングは若い、将来を約束されていたトリオの息の合った演奏である.




英国生まれのジャクリーヌ・デュ・プレは1971年(26歳)に指先などの感覚が鈍くなってきたことに気付く.この症状は徐々に悪化し、1973年の演奏旅行のときには既に満足のいく演奏が行えなくなっていた.同年秋に多発性硬化症と診断され、チェロ演奏家として事実上引退.その後の数年間はチェロの教師として後進の育成を行っていた.1975年にはエリザベス女王からOBE勲章(大英帝国勲章 Order of the British Empire)を授与されている.多発性硬化症の進行により、1987年に42歳で死去した.(Wikipedia)


指折りの銘器と言われる1713年製の巨大なストラディヴァリウス “ダヴィドフ”を生涯演奏し、その巨大なチェロを演奏するデュ・プレ(彼女の短い生涯を考えると悲しいが)をビデオで聴けることができるのは嬉しい.


ベートーヴェン(1770 – 1827)は28歳くらいから難聴が始まったと言うから、「ゴースト」を作曲した年にはすでに難聴が進んでいたらしい.このピアノ・トリオが発表された1808年にヴァイオリニストのルイ・シュポーがベートーヴェンとリハーサルをしたときの様子を鮮明に語っている(上記).「ゴースト」はベートーヴェンの中期(1803-1812頃)の作品で、交響曲第5番、交響曲第6番を含む、最も有名な作品が生み出された時代である.

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