<あらすじ>
第1章は裁判所を出るテレーズとその父親で始まる.弁護士から彼女の罪は不起訴になったことを冷たく知らされ、父親と言葉少なに馬車に乗り込むテレーズ.
第2章からは少女時代の回想と現実が交差する.テレーズの少女時代の友人アンヌは妹のような存在.結果、アンヌの兄、ベルナールと結婚することになる.ベルナールとアンヌの両親は大地主だが教育はない.テレーズは地元の議員の娘であり、両家はこの結婚には賛成だが、家族同士の競争心の様なものも見える.やがて、テレーズは夫の家族には土地と財産が名誉であり、跡継ぎの男子を生まないといけないというプレッシャーや育ちの違いにも気づくことになる.
やがてテレーズは出産するが、子供に関心を持つことができず、すべてに無気力になってしまう.ベルナールの家族や執事達は冷たく、テレーズは寝室に留まりタバコをふかす毎日.しばらくして、テレーズは夫に対して罪を犯すが、故意なのか放心の中で犯したのか分からない精神状態.その裁判の結果が第1章のシーンである.裁判の後、最後の幕は夫とパリへ行き、カフェでお互い同意のうえで別れ、夫は去っていく.
<ブッククラブでの感想>
「素晴らしかった!さすが、ノーベル賞受賞者の作品だけあって、とても一言では感想を言えないですが、閉ざされた世界からの脱出は永遠のテーマですね.自分を偽らずに、生まれてから死ぬまで一つの家族や地域の中で生きていくのは難しいと思う今日この頃.人生の選択は一生ものではなく、プロジェクトだったらいいのに、と思ってしまう.社会が個人にある型に留まるように圧力をかけると、そこに留まるために自分自身および他人に言い訳を考えて落ちていくスパイラルにはまってしまう、誰でもテレーズになり得ると思います.テレーズは、自分では殺人未遂前後でもドラスティックな変化がないと思っているのに対して、ベルナール、父親やアンヌの変わりようも見事に描かれていると思いました.人間みなそうなんでしょうね、自分は一貫していると思っている、その悲しさが心に残りました.」
「色々な意味で読み応えのある本でした.まず翻訳者によって本ってこんなにも違うものかということ.遠藤周作さんの訳はとてもこなれていて読みやすかったです.彼の作者への愛情を感じます.映画も見たのですが、本に忠実でした.馬車と車の違いはありましたけど、風景や人物像の描き方も本を読んで想像していたものをさらに豊かにしてくれるようでよかったと思います.ただ最後の13章、パリでベルナールとの最後の場面、これは原作の持つ深い意味、感情を全て映像で表すのは難しいように思いました.自分の想像力の問題もありますが.何れにしても最終章は本の方が素晴らしいのは確かです.」
「夫に対して罪を犯し、子供は他人任せの妻.当時、この出版はカソリックの影響が強かったフランスの田舎では問題になったと思う.裕福で満ち足りている時に感じる、家庭の閉塞感は贅沢病と解釈されることもあり、近代の現象とオーバーラップしてテレーズの感情が分かる気もするが、現代の女性の方が短絡的であり、楽観的に早期に「別れ」を切り出すのではないかと思う.夫に対する憎悪を抱いてまで暮らしていく女性とその時代の宗教観は、文章では理解できても「なぜ?」と思った行動、生き様であったでした.モーリアックが当書で書こうとした一部は、それぞれの人物が持つ目に見えないエゴであり、それが悲劇につながったのではないかと思う.」
「主人公たちの心模様の変化が本当に面白かった.現代だと、Netflixで産後の鬱になった裕福な主婦のスリラーとして映画が作られそうな感じ.」
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