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  • 執筆者の写真Yuki T.

2/27/2021 本のレビュー「日日是好日」森下典子著

2004年からサンフランシスコ郊外でブック・クラブ(読書会)に参加している.紹介で集まった日本人6、7名の月例会で、その月の課題図書について感想を共有するという会.今年で17年目、読んだ本は150冊にのぼるが、記憶力が悪い私でもブック・クラブで話し合うことによって、どんな本だったか思い出せる.また、旅行先や日々の生活でフラッシュ・バックの様に主人公の心境や本の光景に出くわす.ここに主人公がいたのか!と感動と嬉しさで、ひとり興奮することもある.また、自分で選ぶとジャンルが偏りがちだが、ブック・クラブでメンバーが推薦する本は思ってもみない作家になることもあり、視野が広がり、また海外生活による知識の深みも加わり楽しみも増す.日常に追われると物事を深く思考しなくなりがち、脳に少しでも血(知?)となり肉となっていることに気付いたのは7~8年が経過した頃.

さて、今回は2018年に読んだ「日日是好日」(森下典子著).


<本の内容> 大学生になった主人公は、ぼんやりと文章を書く仕事に就きたいと夢を見ながら日々が過ぎてゆく.そんな時、母親に「茶道をしている人は所作が違うから、習ってみたら?」と勧められ、従妹と近所の茶道の先生宅に通うことになる.卒業後、出版社に勤め、婚約し、婚約者にふられ、暖かく見守ってくれた父親が亡くなる.その間も細々とお茶のお稽古には通う主人公.弟子の中では中堅どころになり、茶道を通して人生や自然について学んでいると気づく.


<感想とブック・クラブ> 何故、この本をこんなに好きになったのか分からないが、各章で共感できることがあり、文章が簡単なこともあり心に沁みわたり、私の心境にドンピシャとはまった.題名にもなった「日日是好日」“Everyday is a good day”と英語で言ってしまうと、何の変哲もない言葉だけれど、日々そう感じながら暮らすのは難しい.また、2月の掛け軸の言葉「不苦者有知」は「ふくはうち」と読み、「苦と思わざる者は知あり」.実に、そのとおり.

ブック・クラブの話合いで「茶道はもてなし.その訓練をするべきなのか?」という質問があった.私の高校では茶道の授業があり、母の薦めもありそれ以来8年ほど続けたが、もてなしの稽古とは思ったことはなく、日本伝統の暮らしの美学(シンプルで清潔に)や、手の表情など動作を鍛錬する場だった.竹のひしゃくからお湯を注ぐ音の心地よさ、その音は冬と夏では微妙に違ったことなど、この本から記憶がよみがえった.時には「心ここにあらず」の状況でも、目の前のことに集中することは大切.


とは言うものの、一杯のお茶を点てるのに、30分近くかかる茶道に比べると、生け花や料理教室の方が実用的.本にも「おばさん達の(お道具)『拝見』は尋常じゃなかった」とあったが、お道具の拝見で、お茶碗の絵や手触りの違いは眼で分かるが、今でも「この茶杓と私の2000円の茶杓とどこが違うの?」と理解できない、エキセントリックな世界であるのも事実.


もう一つの質問で「茶道が女性主流になった理由?」は考えたこともなかったが、武士社会で普及した茶の湯は、武士がいなくなり女子教育が普及した明治からだと思う.伝統文化に触れるチャンスという意味でも結構なことであり、最近の日本では週末だと男性も参加しているらしい.


「成長を待つこと」の章にあった「本当を知るには時間がかかる.けれど、あぁそういうことだったのかと、分かった瞬間、私の血や肉となった」に関して言うと、作者の茶道は、私のブック・クラブかもしれない.ブック・クラブを続けて「ブック・クラブで話したのは、これだわ!」と直感したことを思い出す.私の脳と精神の血となり肉となっている.ブッククラブとそのメンバーに感謝.



この本で最も共感できたのは「雨の日には雨の音を聴く」.カリフォルニアに引っ越して以来、雨の音を聴きながら本を読む日は贅沢とも言える時間.この言葉の裏にあるのは、恐らく、その時の状況を受け入れて、堪能するということ.この20年間、アメリカでの生活で自分自身に言い聞かせたことが、この一句に集約されている.On a rainy day, listen to the sound of rain with your whole body.


下図はブック・クラブのメンバーの一人が、この本のポイントをまとめてくれた.

この本を読んだ後、大ファンだった樹木希林さんと黒木華さんの主演で映画化され、私は帰国の折、母と一緒に喜々と映画館へ足を運んだ.本とは少し違い、映画で設定されたのは私が学生だったバブル時代.


主人公が置かれた環境と心境が似ており、私の場合は地味な学生だったけれど少しばかり留学を考えていた.迷いがありながらも、何となく幸せで、当時は優しくも個性的な学生が多い学校を選んでくれた両親に感謝をしていた.今、その気持ちも忘れていることを映画が気づかせてくれて涙.中盤からは音楽が流れるだけで涙が流れる.なぜだろう、泣かせる映画ではないのに.これがDNAに訴えかける、ということかしら.


茶道を続けている母は、その朝は午前五時起きだったので、最初の15分で寝てしまう.途中、むっくり目を覚ますと「ゆきちゃん、これは表千家.私は、裏千家」と言い、またうつらうつら.「このままで良い、変化は時に悲しみももたらす」と暗がりの中、母の寝顔を見た.



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