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  • 執筆者の写真Takeaki Iida

9/13/2021 音楽家と作品への雑感「チャイコフスキー」

第2章  ピヨートル・チャイコフスキー Peter Tschaikowsky

(1840年~1893年、53歳没)

チャイコフスキーは幼いころから音楽には興味が強かったが、両親は音楽が趣味の一つ程度の環境で、本人は法律学校を卒業し官吏となるが、20歳頃にはペテルスブルグのロシア音楽院の第1回卒業生として音楽家としての教鞭も取るようになる.初期にはパラキレフを始め国民楽派の<5人組>と交流し、音楽院時代には師であるアントン・ルビンシテインの影響を受け、作風は西ヨーロッパの伝統に根ざしたもの.37歳で教え子と結婚するも直ぐに離婚.その後、スイス、イタリア、フランスで生活することが多く、富豪の未亡人メック夫人の年金援助を受けながら作曲活動に専念した.45歳からはモスクワに戻り、最も充実した活動期に入る.しかし、高まる名声に反し、健康は過労のため悪化し、メック夫人の援助打ち切りにも合いペテルスブルグでチフスのため53歳で死去.


私は先の戦争(76年前に終戦を迎えた太平洋戦争、第2次世界大戦)の昭和20年(1945年)8月15日の終戦の年の3月に東京大空襲を自宅の東京都渋谷区で経験し、その年の6月に縁故疎開で長野県南安曇郡(現在の安曇野市)へ移った.6年後の昭和27年(1952年) に以前住んでいた渋谷の家が焼失していたので家族は東京都大田区に戻った.


終戦後間もない当時、東京都大田区の自宅で父親は忙しい日々の中でも、自宅の庭のバラ園の手入れと、何故か数枚のレコードを毎日のように聴いていた記憶がある.

1枚はクラシック音楽のチャイコフスキー交響曲第6番「悲愴」であり、もう1枚はアメリカン・ポップスのダイナ・シュアが歌う「ブルー・キャナリー」だった.何故この2曲を繰り返し聞いていたのか、ついぞ父親に尋ねることもなく過ごしてしまったが、私がチャイコフスキーを先ず知ったのは、この脳裏に焼き付いた「悲愴」の憂愁で甘美な旋律からと言える.


因みに、私の母親は文学書を読むのが好きで、特に「万葉集」には造詣も深く、万葉集の仲間と毎月のように小旅行をするのが楽しみであったことを思い出す.又、母は昭和18年(1943年)に原因不明の爆発事故を起こして柱島沖で沈没した戦艦「陸奥」の主計官として乗船していて殉死した、次弟の慰霊の旅に毎年参加していたことも強く思い出に残っている.


チャイコフスキー作品の特徴は甘美な旋律と憂愁の味わいに満ちたもので、直ぐにでも口ずさめるメロディーが多いと思う.


チャイコフスキーの作品の中ではやはり、耳に残る旋律の交響曲の第6番「悲愴」、ピアノ協奏曲第1番、バイオリン協奏曲を先ず聴きなおすことにした.その後に3大バレエ曲を聴きなおし、クラシック・バレエの神髄はこれにありと改めて思った.「白鳥の湖」「くるみ割り人形」は素晴らしく、バレエ組曲「眠りの森の美女」(作品66)は第5曲の“ワルツ”が曲の題名を表現するように軽快で楽しめる.又、「アンダンテ・カンタービレ」(弦楽四重奏曲第1番ニ長調第2楽章)もチャイコの甘美な旋律が心に沁みる.


今回の雑感記録に際して、改めて聴き直した作曲家の作品のリストをご参考まで下記、表にした.


※①交響曲第5番ホ短調(作品64):改めて聴くと第6番「悲愴」と比べても勝るとも劣らない甘美な旋律と憂愁な味わいに満ちた名曲だと思う.


※②交響曲第6番ロ短調「悲愴」(作品74):絶望的な悲嘆感が全曲に漂い、その効果は比類なきものと改めて思う.


※③ピアノ協奏曲第1番変ロ短調(作品23):1874年(34歳)に、僅か1か月で書き上げた、汲めども尽きぬ楽曲が豊かで流麗なこのピアノ協奏曲豪壮華麗な冒頭が印象に残る屈指の名曲.中村紘子のNHK管弦楽団との演奏(1997年)は心に残る.


※④バイオリン協奏曲ニ長調(作品35):奇しくも、ブラームスのバイオリン協奏曲と同年の1878年(38歳)の作曲.演奏者泣かせの難曲と初演に際しては不評だったが今や名曲.諏訪内晶子のチャイコフスキー国際コンクール最年少優勝(1990年)のモスクワ大ホールでの演奏は楽員が全員退場後も聴衆の拍手鳴り止まなかった.庄司沙矢香と指揮ユーリ・テルミカノフ/サンクトペテルグルグ交響楽団とのNHK音楽祭(2008)の互いの信頼関係が満ち満ちた演奏には感動する.


※⑤バレエ組曲「白鳥の湖」(作品20):バレエを愛好する人が先ず引き込まれてバレエ・ファンになったきっかけは、この作品からだろと思わせる流麗なテンポの良い旋律が心地よい.アンセルメ指揮によるスイス・ロマンド管弦楽団の演奏は淡くデリケートで心地よい.


※⑥バレエ組曲「くるみ割り人形」(作品71):所謂、3大バレエの最後の作品.物語をホフマンの童話からクリスマスに起こったオモチャとお菓子の国での出来事というメルヘンそのものを題材に、実に豊かな創造力と想像力を示して、楽しく美しい音楽に仕立て上げた名作だと思う.


※⑦弦楽セレナード ハ長調(作品48):バッハやブラームス等のドイツ音楽の影響を滲ませながら、独特のスラブ的哀愁を随所に滲み出て美しい.特に、第1楽章では小高い丘陵に咲く草花と小さな池の深みに泳ぐ小魚を彷彿させるような旋律と、第2楽章はN響アワーのオープニング(1995年)他で流された甘美なメロディーで、いつまでも聴いていたい名曲中の名曲と言っても過言ではない.コリン・デービス指揮によるバイエルン放送管弦楽団の演奏は秀逸.


2021年9月10日記

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